5-3 医療と福祉の相互理解についてのワーキング 報告書 (1) 目的    地域で暮らす障害のある方の医療機関受診や健診等に関して,電話やオンライン診療により病院に行かなくとも受診できる仕組みや,病院の駐車場で診療待ちができる対応等,近年のコロナ禍において障害のある方への受診に対する配慮の取組が広がり始めている。    しかし,障害の特性や医療機関の状況により,障害のある方が診療や健診を受ける際に様々な場面で困難を伴うとの声が当事者や関係者より寄せられている。    本ワーキングでは,当事者,医療従事者,福祉関係者が病院での受診や在宅診療並びに健診時における課題や意見を出し合い,双方の理解をより一層深めることで,障害のある方が安心して受診できるような環境づくりについて検討する。 (2) ワーキングにおいて取り組む主な内容について    ワーキングメンバー及び医療・福祉関係者から意見を伺い,医療面における現状を把握する。現状を踏まえ,調布市医師会にアンケートを実施し,アンケート結果から導きだされた課題を考察,検証する。 (3) ワーキンググループメンバー(敬称略)  座長 山本 雅章 (社会福祉法人調布市社会福祉事業団 業務執行理事)     西田 伸一 (公益社団法人調布市医師会 会長)     進藤 美左 (特定非営利活動法人調布心身障害児・者親の会 会長)     伊藤 文子 (訪問看護ステーションあんあん 所長)     江口 正和 (調布市身体障害者福祉協会 会長)     愛沢 法子 (調布市視覚障害者福祉協会 会長)     井村 茂樹 (調布市聴覚障害者協会 会長)     江頭 由香 (調布精神障害者家族会かささぎ会 会長)     秋元 妙美 (一般社団法人障害者自立相談支援協会 CILちょうふ 代表)     栗城 耕平 (地域生活支援センター希望ヶ丘 施設長)     円舘 玲子 (調布市障害者地域生活・就労支援センターちょうふだぞう 施設長) (4) 事務局    相談支援事業所ドルチェ    調布市障害福祉課 (5) 令和4年度のワーキングにおける成果目標    受診等に際し,障害当事者及び医療側の現状や課題を把握する。また,調布市医師会にアンケートを実施し,その結果から相互理解において何が必要なのかを検証する。    ~第1回ワーキング~ 1 開催日   令和4年7月1日(金) 午後6時30分から8時30分 2 開催場所  調布市文化会館たづくり301・302会議室 3 出席者   委員10名 事務局8名 4 内容    内容 ①今年度のワーキングの目的を確認            ②医療における課題について            ③今後の方向性 5 主な意見 ・身体障害のある方は年齢を重ねると二次障害が起きやすい。また,専門家が必要なのではなく,身近な所に自分の症状を理解してくれる主治医が増えてくれたら良い。その他採血を2人体制にしてくれる等,小さな配慮があると良い。 ・視覚障害のある方の場合には入院や緊急時に承諾書を書くことが難しい。医療機関側の説明や誘導の仕方など障害を理解した対応をしてほしい。盲導犬と通院することを拒否されることが多いが,盲導犬の待機場所を作ってくれた医療機関もある。 ・聴覚障害のある方はマスクを着用している場合,口話ができず症状をうまく伝えることが難しい。コロナ禍では感染リスクが生じるので医療機関に手話通訳者の同行が厳しい状態だった。タブレット端末を使用した遠隔手話通訳は操作を難しく感じる方もいる。 ・知的障害の方の場合,小児科は障害の有無にかかわらず,本人を理解して医療対応してくれるが,眼科,耳鼻科,歯科などでは治療を断られる場合もある。知的障害児は医師の接し方や雰囲気の影響を受けやすい子が多い。特別な対応や設備がなくても,声掛けや話し方によって診察がスムーズに行える場合がある。小児科から成人の医療機関に繋がる際に病院同士で引き継いでもらえる機会があると良いと思った。また障害別の対応マニュアルがあれば良いと感じた。 ・精神障害のある方は精神科に通院していることで入院が難しい場合がある。福祉と医療が繋がり,当事者の状態をわかってくれると良い。本人が医療拒否している場合には,本人同意が得られないという理由で医療に繋がること自体が難しい。医療受診や健診でのいい事例の積み上げがあると良い。 ◎西田医師の所見 ・急性期医療の問題:病院の病床配分,入退院連携,入院支援を強化していく必要がある。 ・健康診断の問題:健康診断等で病気を早期発見することで死亡リスクを大きく減らすことができる。障害のある方の健康診断をどのように確保するかは喫緊の課題になっている。また,スロープやエレベーター等建物内外のバリアフリーや,処置スペースの広さを十分に確保できないといった環境面の問題もある。調布市総合福祉センターが移転する際に障害のある方の健診の場を確保できると良い。 ・かかりつけ医の問題:専門医療ではなく家庭医として継続的に見てくれるかかりつけ医をどうやって確保するかが課題。現状専門医療が主体となっているため意識改革が必要。調布の医師会に行政主体でアンケート調査を行い,発信できる情報を作成してもらえるといい。 ・様々な障害の方の医療へのワンストップの窓口が必要:かかりつけ医がいない方が利用できる医療相談窓口が必要。医師会に在宅医療相談室は設けられている。 6 まとめ ・初年度に医療関係者,利用者にアンケート調査を行い,医療との考え方のギャップを埋めていくことで標準化を図っていく。調査対象は手帳所持者の中からピックアップアップするか,もしくはそれぞれの会の代表にお願いしていくか検討していきたい。利用者のアンケートは本人と家族を別で行った方が良い場合もあるので,調査方法も今後検討する。 ・次回までに事務局でたたき台を作成し,次回のワーキングで内容を検討する。ワーキングの期間は2年間を目標とする。  ~第2回ワーキング~ 1 開催日   令和4年9月30日(金) 午後6時から8時 2 開催場所  調布市文化会館たづくり601・602会議室 3 出席者   委員11名 事務局6名 4 内容    ①前回のワーキングの概要         ②当事者及び当事者家族向けアンケートの概要について         ③次回以降の日程について 5 主な意見   アンケート概要を元に事務局から説明。その後アンケート項目などについてご意見を頂いた。 ①アンケート項目・全般について (アンケートに盛り込みたい,聞いてみたい項目) ・訪問診療やリモートでの受診など具体的な診察方法 ・通院の際の同行者の有無 ・障害種別ごとの質問項目 (アンケート全般について) ・本アンケートの趣旨・目的・背景などが鑑文で説明があった方がよい。 ・負担がないようトータル20分程度で回答できた方がいい。 ・回答の選択肢を増やし,詳細な意見や気持ちがわかるようにできるといい。 ②かかりつけ医の定義について ・生活全般にわたって健康状態を診てくれる医師を指す。 ・精神障害のある方については精神科の主治医がかかりつけ医とは定義できない。 ・かかりつけ医は大学病院でも地域のクリニックでも該当する。診療科目も問わない。 ・本アンケートでのかかりつけ医の定義を冒頭の文章で丁寧に説明する必要がある。 ③対象者について ・アンケートの回答については障害によってご自身で回答できる方,家族や支援者に代筆・代理で返答していただく方など様々。 ・精神障害のある方についてはご本人と家族の意向や考えが異なることで,医療に繋がらないケースがある。そのため実態把握のためには家族が回答する必要性がある。回答者がご本人なのか家族なのかを聞いた上で,家族にもアンケートに回答してもらいたい。 ・知的障害のある方は本人と家族の意向が合致している場合が多いが,精神障害のある方は意向が異なることも多い。アンケート結果でその差異がわかると思われる。 ④発送数について ・ペーパーベースで返信用封筒をつけて郵送する。障害福祉課で障害のある方の名簿から1,000人を無作為抽出する。障害や年齢分布を加味し,障害種別や年齢に偏りがないようにする。 ・重度心身障害(児)者や医療的ケアが必要な方も含め,アンケートを依頼する。 ⑤回答・集計方法について ・最近はQRコードでの回答がほとんど。用紙だけでなくQRコードもつけた方がいい。 ・QRコードなら50代以下の方なら対応可能だと思う。 ・〇をつけるだけで回答できるものがいい。 ・Googleフォームだと解析もスムーズである。 ⑥情報保障について ・視覚障害のある方で家族がいない場合,ガイドヘルパーよりも相談員(計画相談)に依頼する方が無難かと思う。セルフプランの方などは回答する人がいないかもしれない。アンケートが届いていること自体気が付かない人もいる。 ・配布や回答には相談支援事業所にも協力してもらえるようにしたい。 6 まとめ ・今回のワーキングでは「かかりつけ医」の定義について委員で統一見解を図り,アンケートの内容やとり方について時間をかけて話し合った。アンケートを通して当事者側の意向を確認すると共に,病院側の受診受け入れ促進要件,阻害要件を明らかにしていく。医療機関の見える化を図り,医療関係者に障害理解の促進を図っていけたら良い。 ・次回の12月のワーキングまでに当事者対象のアンケートを作成する。事前に案ができたらメール等で委員の方に送り,意見を頂く。医療機関対象のアンケートの案は西田先生に作成を依頼する。令和4年度内にアンケートを発送し,次年度分析する予定。当ワーキングは2年間の期間で実施する。3回目のワーキングは12月で日程を調整する予定。  ~第3回ワーキング~ 1 開催日   令和4年12月9日(金) 午後6時から8時 2 開催場所  調布市文化会館たづくり303・304会議室 3 出席者   委員8名 事務局8名 4 内容    ①医療従事者向けアンケート内容について         ②当事者及び当事者家族向けアンケートの内容について         ③次回以降の日程について 5 主な意見 ◎医療従事者向けアンケート内容について ・同じアンケートで障害別の内容を盛り込むとまとまりがなくなるのではないか。例えば比較的医療に繋がりにくいと思われる知的障害のある人を中心にしたアンケートにしてはどうか? ・今回のアンケートは調布市医師会所属の病院(医師)を対象にする。 ・貴重な機会なので他の障害に対する質問を入れても良いのでは。聴覚障害の方から以前障害福祉課にバリウム検査の拒否等で意見が寄せられていた。 ・精神障害のある方を対象にした質問については,内科の受診で自身の言葉で説明や病感を伝えることが難しいため,質問項目を追加してほしい。医療機関側が説明やコミュニケーションで困った例や難しかった例を聞いてみたい。 ・医師会にアンケート調査できるのは画期的なこと。今回はすべてを網羅するアンケートではなくても,結果から見えてくることが多くあると思う。 ・医療側の心情や医師の気持ちを聞いてみてはどうか。実際は診察したいと思っているが課題がある等意見が出てくるかもしれない。 ◎当事者・家族向けアンケート内容について ・「かかりつけ医をもたない」の項目について,病識がない精神障害の方と家族で意識が異なる場合があるため,家族か当事者どちらが回答したかを,わかるようにしてほしい。 ・精神障害のある方については,受診の阻害要件として,病識がないことや精神的負担感の大きさ,また自身での病状説明するのが難しいことが考えられる。そのため,アンケート案ではそれぞれの阻害要件を理由とする項目の追加をお願いしたい。 「相談内容を医師が理解してくれない。」または,「相談内容を医師に適切に説明できない。」 「検診内容が負担だから」「忙しいから」 ・実際にアンケートに答えた人に意見を聞いたところ,質問に答えた後,次の質問がどこに飛ぶなどの指示があるとわかりやすいとのこと。また,グーグルフォームでネット上の回答ができるなら,自動で次の質問に飛ぶようにできたら良い。 ・健康診断の項目で,作業所の検診も受けるが市の検診も受ける,または受けたいができない等回答が複数ある場合もありえるので,回答方法に工夫があると良い。 ・自由記述欄があると良い。 ・医療的ケアが必要な障害児など,成人になった時点で内科に移行できず医療と切れることもあるので,当事者の年齢をクロス集計できると良い。併せてかかりつけ医が何科かわかると良いのでは。 ・かかりつけ医の説明についてわかりにくい点があるので,表現を工夫した方が良い。 ・かかりつけ医の項目では複数回答も可とし,自由記述もあると良い。 ・障害種別を問う項目で選択肢が「のみ」となっているが,複数回答が必要な人もいるのでは。 ・発達障害の方でもわかりやすいように回答の「やや」を「少し」という表現にできないか。 ・かかりつけ医の良い点については,自由記述や複数回答もあると思われる。 6 まとめ ・医療従事者向けのアンケートは,それぞれの障害種別で大項目を設け,各障害のある方の医療アクセスの状況について伺う。 ・当事者向けのアンケートについては,今回の意見を元に修正し,再度ワーキングメンバーにメール等で送付し確認いただく。アンケートは1月末までの発送を目指す。 ・集計及び統計については,大学の専門分野の講師から意見をいただく。 ・集計が終わるタイミングで第4回のワーキングを実施する。  ~第4回ワーキング~ 1 開催日   令和5年2月28日(火) 午後6時から7時30分 2 開催場所  調布市総合福祉センター 4階視聴覚室 3 出席者   委員11名 事務局7名 4 内容    ①医療従事者向けアンケートについて         ②当事者及び当事者家族向けアンケートの内容について 5 主な意見 ◎医療従事者向けアンケートについて   ・西田医師が前回のワーキングで出た意見を元にアンケートの内容を修正。理事会に出し,執行部の了承を得たため,近日中に医師会宛に発送する予定。 ・アンケートは医師会の事業として実施するため,医師会から発送後,集計する。次年度初回のワーキングにて結果を報告する予定 ・回答は発送から2週間後に設定する予定。60%程度の回答を得られたら良い。 ・医療機関側が受け入れられない理由を率直に伝えてほしい。また,どのような体制があれば受けられるのかも知りたい。 ・「車椅子が入れるエレベーター」が設置されているかどうかという質問があるが。車椅子の大きさに幅があるので,何人乗りかを記載してもらうようにしたい。 ・「サポート犬同伴可能」という記載があるが,正式な名称は「補助犬」であるので修正してほしい。 ・「手話対応できる職員の配置」という記載があるが,手話ができても通訳ができるとは限らない。手話通訳の同行を受け入れてくれるか,筆談ボード等があるかも聞きたい。 ・障害名の欄に「発達」も入れてほしい。 ・アンケートは障害者に対して理解がある医師が答える率が高い。バイアスがかかるのはアンケートの限界ではある。 ・報告書への記載,自立支援協議会での発表について,医師会からデータの使用許可を得てほしい。 ◎当事者及び当事者家族向けアンケートの内容について  ・障害のある方1,000人を無作為抽出し,アンケートを発送した。22日締め切り。グーグルフォームで届いた返答が41件,書面での返答が400件以上。 ・1,000人の内訳は調布市の手帳所持者の割合に合わせて抽出した。身体障害が約6割で高齢の方が多い。 ・聴覚障害の場合には文字を読むことが苦手な方もいるので,回答率が低い可能性がある。その際調布市聴覚障害者協会に依頼して個別に返答可能。 ・調布心身障害児・者親の会の会員に同様のアンケートを送り66件返答があった(内64人が家族)。知的障害者の場合には学校や通所先で健康診断を受けているが,特定健診やガン健診を受けられている方はほぼおらず,医療アクセスが十分とは言えない。 ・高齢になってから障害になった方と生まれながらの障害は異なるので,自由記述を参考にして分析する必要がある。 ・全体集計とともに障害別にも集計した方が良い。 ・精神障害の場合には,当事者と親の認識が異なるので,どちらが回答したかわかるようにしてほしい。 ・良かった対応の例も知りたい。断られた事例はヒアリングしないと出てこない。 ・各障害者団体でアンケートを集計することはできるが,無作為抽出で得た結果とは分けて考えた方が良い。 ・少数意見をきちんと確認した上で,個別に団体にヒアリングを行い,内容をリアルにしていく。 6 まとめ ・今回のワーキングでは医療従事者向けのアンケートの最終案を元に話し合いを行った。理事会にて了承を得ているので,今後は医師会に加入している医療機関にアンケートを発送し,結果を集計する。 ・当事者及び当事者家族へのアンケートに関しては,調布市の手帳所持者1,000人に無作為抽出で郵送を行い,440件以上の回答が集まった。ただ,同じく無作為抽出で実施した市民ニーズ調査では,医療アクセスで問題を感じていないという回答が多く寄せられたことで,実際にニーズを抱えている当事者との間に相違が見られることがあった。そのため,アンケートの集計結果から,ニーズを抱えている当事者の思いや意見が反映されるように少数意見など丁寧に集計結果を深堀していく必要がある。 ・今後は双方のアンケート結果を照らし合わせ,どのように読み解くか,今後の展開を考える検討する必要がある。クロス集計をかけ,令和5年度第1回のワーキングで結果を報告する予定 ■ これまでの到達点  障害当事者向けのアンケートを2月初旬に市内在住の障害手帳をお持ちの方から1,000人を無作為抽出し,440件以上の回答が集まった。 ■ 今後の展望と課題 ・医療従事者向けのアンケートに関しては,アンケートの質問項目についての意見出しを行い,令和5年度第1回のワーキングまでに医療従事者向けアンケートを発送,その集計を行う予定。 ・令和5年度のワーキングでは,当事者及び医療従事者向けアンケート結果を踏まえて,当事者の受診について受け入れ促進要件や阻害要件を明らかにしていき,解決方法等について検討していく。