(答申第1号) 答 申 1 審査会の結論  処分庁が,令和3年7月7日付け3調都建発第980001号で,審査請求人に対して「〇町〇-〇-〇の擁壁等の東京都からの勧告,注意喚起の文書,その内容と調査と経緯についての説明文書」を非公開決定とした処分は,妥当である。 2 本件の経緯 (1) 審査請求人は,調布市情報公開条例(平成11年調布市条例第19号。以下「本条例」という。)第6条第1項の規定により,令和3年5月31日付けで市政情報公開請求書を処分庁に提出し,「〇町〇-〇-〇の擁壁等の東京都からの勧告,注意喚起の文書,その内容と調査と経緯についての説明文書(以下「本件請求文書」という。)」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。処分庁は,同年6月3日付けで,市政情報公開請求書を受理した。 (2) 処分庁は,本件請求文書について,本条例第10条を理由として,市政情報非公開決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。 (3) 審査請求人は,本件処分を不服とし,令和3年10月6日に提起された審査請求書(以下「本件審査請求書」という。)を審査庁に送付し,行政不服審査法(平成26年法律第68号。以下「法」という。)第2条の規定により,審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。 (4) 審査庁は,令和3年10月25日,法第19条第2項第3号及び第4号の必要的記載事項の不備により,審査請求人に対して補正書を送付するとともに,補正期限を同年11月8日とした。 (5) 審査庁は,令和3年11月4日付けで,審査請求人から補正書の提出があったため,同月 19日本件審査請求書及び補正書の写しを処分庁に送付するとともに,本件処分に係る弁明書(以下「本件弁明書」という。)の提出期限を同年12月13日に設定した。 (6) 処分庁は,本件審査請求に対し,令和3年12月9日付け3調都建発第2530002号で本件処分に係る本件弁明書を審査庁に提出した。 (7) 審査庁は,令和3年12月15日に本件弁明書の副本を審査請求人に送付するとともに,本件弁明書に対する反論書(以下「本件反論書」という。)を提出する場合の期限を,令和4年1月12日に設定した。 (8) 審査請求人は,法第30条の規定により,令和4年1月11日付けで本件反論書を審査庁に送付した。 (9) 審査庁は,令和4年1月12日に本件反論書を受理し,同月19日にその写しを処分庁に送付するとともに,本件反論書に対する再弁明書の提出期限を同年2月2日に設定した。 (10) 審査庁は,令和4年1月31日に処分庁から再弁明書の提出をしない旨の通知があり,同年2月8日,本件審理を終結した。 (11) 審査庁は,本条例第19条の2第1項の規定により,令和4年2月8日付け3調総法発第 3140001号で,調布市情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に諮問(以下「本件諮問」という。)を行い,諮問書とともに本件審査請求書,本件弁明書及び本件反論書の写し(以下「本件諮問書等」という。)を当審査会に提出した。 (12) 当審査会は,令和4年2月8日に本件諮問書等を受理した。 3 本件審査請求の内容 (1) 本件審査請求の趣旨  調布市長の令和3年7月7日付けの審査請求人に対する市政情報非公開決定処分を取り消すとの採決を求める。 (2) 本件審査請求の理由   ア 審査請求書における主張     審査請求人の本件審査請求書及び補正書における主張はおおむね以下のとおりである。 (ア)  本条例第7条との関係について  本件処分は,本件土地上に存在する擁壁等の東京都からの勧告,注意喚起の文書,その内容と調査と経緯についての説明文書が,存在しているか否かを答えるだけで,本条例第7条第2号に該当する個人情報を公開することとなることを理由とし,本条例第10条に基づき非公開決定としている。しかし,本件請求文書が,存在しているか否かを答えるだけで,特定の個人が識別されるとはおよそ考えられない。本件請求文書は,当該擁壁の構造上の問題や,維持・管理に関する問題等を指摘した内容が記載されているに過ぎないものと考えられ,特定の個人に関する情報とは何ら関連しないものである。少なくとも,本件請求文書が存在しているか否かを回答するだけで,個人の情報が公開されることになるとは到底考えられない。 (イ)  本条例第8条との関係について  仮に本件請求文書に非公開情報である個人情報が含まれるとしても,本条例第8条により,当該個人情報に関する部分を黒塗りするなどすれば,容易に個人情報を区分することが可能である。また,審査請求人が公開を請求している情報は,あくまで本件土地上の擁壁の安全性に関する情報や東京都が勧告した補強・修繕の方法等であって,個人情報が開示されなくとも,公開請求の趣旨は十分に果たされる。したがって,少なくとも,本件処分は,本条例第8条に反するものである。 (ウ)  本条例第9条との関係について  本件審査請求人の公開請求にかかる〇町〇-〇-〇土地(以下「本件土地」という。)上の擁壁は,一見して倒壊・崩落等の危険があることが明らかな状況となっている。これを裏付けるように,本件土地の北側にある〇〇には,本件擁壁に近づくことができないように調布市により本件擁壁に沿って万能板が設置されている。擁壁の安全性に関する問題は,個人の財産のみならず,人命にも関わる重要な事柄であり,審査請求人個人だけの問題ではなく,隣接する〇〇の利用者等にも影響する問題であり,極めて公益性の高いものである。  したがって,本件請求は,公益上特に必要と認められるものであるから,本条例第9条に従い,本件請求文書の公開請求は認められなければならない。   イ 本件反論書における主張     本件審査請求人の本件反論書における主張はおおむね以下のとおりである。 (ア) 本条例第7条との関係について  調布市は,本件請求の請求文書の存否を回答することで非公開情報を公開することとなると判断した旨主張する。しかし,本件請求の請求文書は,当該擁壁に関する安全性や補修等の必要性に関する記載を内容とするものと考えられ,およそ特定個人の私生活上の情報その他の個人との関係性を有する情報に該当するものではない。非公開情報とされるべき情報は,あくまで例外として限定的な解釈・運用がなされるべきものであるが,調布市の判断は,およそ個人に対して発出された文書は全て「個人に関する情報」として非公開情報に該当すると判断しているにほかならず,市政情報公開請求の制度趣旨に悖る不当な判断としか言いようがない。   (イ) 本条例第10条との関係について  本件情報公開請求の対象である文書の存否は,単に当該擁壁に対する安全性等の判断や,これに基づく補修等の勧告がなされたか否かとの事実を示すことにしかならないのであり,個人に関する情報に関連するとは到底考えられず,「個人情報に関する情報」であるとの調布市の主張は,おおよそ根拠を欠く。   (ウ) 本条例第8条との関係について  仮に,公開請求の対象である情報に非公開情報が含まれているとしても,当該非公開情報部分を区分して除くことが可能であり,かつ区分して除いても,公開請求の趣旨を損なわない場合には,可能な限り,公開請求は認められなければならないと本条例第8条に規定されている。このような対応を取ることが,市政情報は原則として公開されるべきとする本条例第7条の趣旨にも合致する。  また,審査請求人が上記文書の公開を求める理由は,東京都からの勧告等の文書が誰に対して発出された文書であるのか,との点にあるのではなく,当該擁壁が安全であるかどうかという点と,その判断をした根拠を確認したいとの点にある。  仮に,本件請求文書に非公開情報である個人情報が含まれるとしても,本条例第8条により,当該個人情報に関する部分を黒塗りにするなどすれば,容易に,個人情報を区分することが可能であるし,審査請求人が本件情報公開請求を行った目的も達することができる。   (エ) 本条例第9条との関係について  擁壁の安全性に関する問題は,個人の財産のみならず,人命にも関わる重要な事柄であり,審査請求人個人だけの問題ではなく,隣接する〇〇の利用者等にも影響する問題であって,極めて公益性の高いものである。 4 処分庁による本件弁明書の趣旨   本件弁明書による処分庁の主張を要約すると,おおむね以下のとおりである。 (1) 弁明の趣旨   「本件審査請求を棄却する」との裁決を求める。 (2) 本件審査請求に対する主張要旨  本件審査請求には,本件処分が本条例第7条,第8条及び第9条の規定に違反するため,不当なものとして取り消すよう求めていることから,それぞれの規定について次のとおり反論する。   ア 本条例第7条について  本条例第7条では市政情報の公開義務について規定しているが,同条第2号において「個人に関する情報(事業を営む個人の当該情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は他の情報と照合することにより識別することができることとなるもの」は公開義務から除外する旨が規定されている。  審査請求人は,本件請求によって審査請求人が請求した文書について,特定の土地に存する建築物の状況を書いたものであって,特定の個人が識別される情報ではないと主張しているが,一般的に,勧告や注意喚起の文書は個人に対して発出されるものであり,本条例第7条第2号の「個人に関する情報」に該当する。  なお,本条例第10条では,「当該公開請求に係る市政情報が存在しているか否かを答えるだけで,非公開情報を公開することとなるときは,当該市政情報の存否を明らかにしないで,当該公開請求を拒否することができる。」と規定しており,本件請求はその文書の存否を回答することで非公開情報を公開することとなると判断したため,本件処分のとおり存否の回答を拒否したものである。   イ 本条例第8条について  本条例第8条では,「実施機関は,公開請求に係る市政情報の一部に,非公開情報が記録されている場合において,非公開情報に係る部分を容易に区分して除くことができ,かつ,区分して除くことにより当該公開請求の趣旨が損なわれることがないと認められるときは,当該非公開情報に係る部分以外の部分を公開しなければならない。」と規定している。審査請求人は,本件請求について,非公開情報を区分して除くことが可能である旨主張しているが,本件請求によって審査請求人が請求した文書は,その存否を回答することが非公開情報の公開にあたるため,区分して除くことはできない。   ウ 本条例第9条について  本条例第9条では「実施機関は,公開請求に係る市政情報に非公開情報(第7条第1号に該当する情報を除く。)が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めたときは,公開請求者に対し,当該市政情報を公開することができる。」と規定しており,非公開情報が存在する場合に,その情報を公開するかどうかについて市に裁量があることを示したものである。アで述べたとおり,本件請求については,その存否の回答を拒否したものであるため,そもそも本条例第9条の規定を適用することはできない。 5 審査会の判断  当審査会は,本件審査請求人の本件審査請求書及び補正書における主張並びに処分庁の本件弁明書及び理由説明における主張を具体的に検討した結果,以下のように判断する。 (1) 宅地造成等規制法に係る勧告書等について  本件請求文書「〇町〇-〇-〇の擁壁等の東京都からの勧告,注意喚起の文書,その内容と調査と経緯についての説明文書」は,一般的には,宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号)第16条第2項の規定に基づき,東京都が,宅地の所有者等に対して行う勧告書等のことであり,東京都が勧告を行うと,調布市に通知があるとのことである。  また,処分庁の説明によると勧告等の有無及びその内容は,一般には公表されていない情報であるとのことである。 (2) 本件請求文書の存否応答拒否の妥当性について  本件公開請求に対し,処分庁は,本条例第7条第2号に規定する非公開情報を公開することとなるとし,本条例第10条に基づき,その存否を明らかにせず本件公開請求を非公開とする決定を行った。  審査請求人は,本件請求は,あくまで土地上に存在する擁壁等に対する行政指導の有無等の公開を求めるものであるから,特定の個人が識別されないため,公開しても条例第7条第2号に該当しないという旨の主張を行っている。  これに対して,処分庁は,行政指導は一般に擁壁等そのものではなくそれを管理する個人に対してなされるものであるから,ある擁壁等に行政指導がなされたかどうかは本条例第7条第2号に規定する個人情報に該当すると主張する。  これについて,当審査会が検討するに,本件公開請求は,特定の土地地番を指定して,当該土地に存する,擁壁等への東京都からの勧告,注意喚起の文書,その内容と調査の経緯についての説明文書の公開を求めるものである。このため,本件請求文書の存否を答えることは,擁壁の存する土地所有者に対して,東京都からの勧告等が行われたか否かを明らかにすることと同様の結果を生じさせることになる。また,本件請求文書はある特定の地番を指定していることから,不動産登記簿により,当該土地の所有者が判明するため,結果として当該土地所有者という特定の個人を名指しして当該個人の個人情報の公開を求めているものと認められる。  したがって,本件請求文書の存否を明らかにすることにより,本条例第7条第2号の本文に規定する「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は他の情報と照合することにより識別することができることとなるもの。」を公開することとなると認められる。 次に,同号の例外規定のただし書について検討する。  原則公開を基本的な考え方とする情報公開において,同号は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は他の情報と照合することにより識別することができることとなるもの。」を非公開とする規定である。しかしながら,同号ただし書ア,イ及びウにおいては,個人の利益保護の観点から非公開とする必要のないものや公益上公にする必要性の認められるものについて,例外的に公開することを規定したものである。  その内容としては,同号アにおいては「法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」について,同号イにおいては「当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第4項に規定する行政執行法人の役員及び職員を除く。),独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員並びに地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」について,同号ウにおいて「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」について,以上を非公開情報から除くと規定している。  処分庁の説明によると,勧告等の有無及びその内容は,一般には公表されていない情報であるとのことである。よって,本件請求文書は,これを一般に公にする制度があるものと認められず,法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報ではないことから,同号ただし書のアに該当しない。またその内容及び性質からただし書のイに該当するものでもない。  次に,ただし書のウについて検討する。ただし書のウは,プライバシーを中心とする個人の正当な権利利益は十分に保護されるべきであるが,公にすることにより保護される利益がそれに優越する場合に,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることがより必要であると認められる情報については,公開することを定めたものである。  当審査会は,本条例第23条第4項の規定に基づき,処分庁に本件土地周辺の資料の提出を求めた。当審査会が同資料を見分したところ,人の生命,健康,生活又は財産を保護する利益が優越し,何人にも公開することが必要であるとすべき事情までは認められなかった。よって仮に本件請求文書が存すると仮定した場合において,現段階で,本件請求文書を公開することによる利益が,これを非公開とすることにより保護される利益に比して,優越するものとまでは認められなかった。そのため,本件請求文書が,ただし書のウに該当すると解されるとまではいえない。 したがって,同号ただし書のいずれにも該当しない。   以上のことから,本件請求文書の存否を答えることにより,本条例第7条第2号に規定する非公開情報を公開することとなると認められるので,本条例第10条の規定により本件公開請求を非公開決定した処分庁の決定は,妥当である。   なお,審査請求人は,本条例第8条に該当する旨主張しているが,本条例第10条に該当する以上,本条例第8条について,当審査会として検討する余地はない。  また,審査請求人は,本条例第9条に基づく,公益上による裁量的公開も求めている。本条例第9条は「実施機関は,公開請求に係る市政情報に非公開情報(第7条第1号に該当する情報は除く。)が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めたときは,公開請求者に対し,当該市政情報を公開することができる。」と規定している。これは,本条例第7条各号の非公開情報の規定に該当する情報であっても,実施機関の高度の行政的な判断により,公開することに当該保護すべき利益を上回る公益上の必要性があると認められる場合は,公開することができることを定めたものである。この規定に関して,処分庁に確認したところ,「隣接する〇〇の利用者等にも影響する問題であり,極めて公益性の高い情報」とは言い難いとして,公開の公益性を否認している。本条例第7条第2号のただし書のウで検討したとおり,仮に本件請求文書が存すると仮定した場合において,その公開が審査請求人の私益を守る手段になる可能性はあるものの,それを超えた公益的な目的があるとは認めがたい。そのため,本件において同条は適用できない。 よって,「1 審査会の結論」のとおり判断する。 6 当審査会の処理経過   当審査会は,本件諮問について以下のように審査を行った。    令和4年2月8日審査庁から本件諮問書等を受理    令和4年4月20日情報公開審査会(令和4年度第1回)    令和4年5月18日情報公開審査会(令和4年度第2回) 調布市情報公開審査会委員 職名 氏名 備考 会長 草川 健 弁護士 副会長 井上 寛 弁護士 委員 稲益 和子 弁護士 1