報告書「調布市自治基本条例の制定に向けて」 平成18年6月 調布市住民自治基本条例に関する市民懇談会 目  次 はじめに  Ⅰ 懇談会の構成及び運営面での約束ごと Ⅱ 報告書の作成に向けて  Ⅲ 基本条例制定へ向けた提言  Ⅳ 懇談に際して用いた調布市自治基本条例の全体的構成案  Ⅴ 全体的構成案に即した懇談内容  Ⅵ この報告書の扱いについての要望  おわりに  2006.6.9  調布市長  長友 貴樹 様     報告書「調布市自治基本条例の制定に向けて」 調布市住民自治基本条例に関する市民懇談会 神長  勲(座長・学識経験者) 丸山 光信(副座長・市民委員) 荒木千恵子(市民委員)                      河野  久(学識経験者)   小島 嘉子(市民委員)                      齊藤 亀三(市民委員) 鉄矢 悦朗(市民委員) 藤生よし子(市民委員) はじめに  この懇談会は、2004年12月に、「調布市住民自治基本条例に関する市民懇談会要綱」(調布市要綱第72号)に基づき、調布市長 より委嘱を受けて発足したのち、2006年3月までに作業を終えて市長宛に報告書を提出することとしました。また、懇談会は、「調布 市住民自治基本条例」よりも「調布市自治基本条例」がより妥当であるとする立場をとることにしました。  懇談会は、調布で生まれ育った人、長く調布で暮らす人、新しく調布に住むことになった人、そして住んでこそいないけれど調布に深い 関心を持つ人、とさまざまでした。ですが、みんな、調布を愛し、いまの調布をよりよく変えていきたい、次の世代にメッセージを伝えた い、そういう人々の集まりでした。それだけに、17回におよぶ会合は、率直で活発な意見交換の場でした。  ここに、報告書「調布市自治基本条例の制定に向けて」を市長に提出致します。  まず懇談会運営における約束ごと、報告書の目的等を明らかにしたのち、調布市自治基本条例制定に向けての提言を要約し、ついで同条 例のとりあえずの全体的構成案に即した意見を記し、最後に報告書の取扱についての要望を記すことにいたします。  各委員による個別の提案や関連資料等については、末尾の資料集をご覧ください。 Ⅰ 懇談会の構成及び運営面での約束ごと  1 懇談会の構成    懇談会委員名ならびに17回の懇談経過及び出席者名は別紙の通りである。懇談会議事録(要約)は調布市役所ホームページに掲載 されている。毎回の懇談会は公開され、たえず10数名の傍聴人がいた。傍聴人は、座長の許可を得て感想的発言を述べたことがあった。 事務局として政策室より数名の職員がつねに同席した。  2 懇談会の運営面での約束ごと (1) 懇談会は毎月1回19時から21時までの開催を原則とし、必要に応じ回数を増やす。 (2) 毎回の懇談会は公開するとともに、要点筆記方式による議事録を作成し、全委員によるチェックを経たのち、調布市役所ホーム ページに掲載する。 (3) いわゆる「事務局主導」の進行とはしないが、事務局と協調関係は保つようにする。 (4) 関連する先行作業に十分留意する、傍聴者の意見に耳を傾ける、次代を担う若い世代の意見を聞く機会を設けるなどして、懇談会 の視野が狭くならないようにする。その具体的な試みとして、2005年5月19日に「調布市基本計画推進プロジェクトチーム」に対す るヒアリングを行い、ついで7月20日に、委員5名が調布南高校において、神代高校、調布北高校、調布南高校の高校生13名から調布 市政や調布の印象などについて意見を聞く機会を持った。 Ⅱ 報告書の作成に向けて  1 報告書の目的    この報告書は、基本条例制定に際してガイドラインとなることを目的としている。懇談会は基本条例案策定のために設置されたもの ではないから、提言や考えかたを示すが、条文案を示すことはしない。ただし、懇談の過程で各委員によって示された条文案は添付の資料 集に収めた。  2 懇談の進展    懇談会は、当初は自由な発題に基づく懇談を行ったが、半ばより検討項目を定め、最終的には以下に示すような基本条例の全体的構 成案をつくり、それに即して懇談を行った。  3 報告書の記述方法    合意を大事にするが、意見の違いは明記する。 Ⅲ 基本条例制定へ向けた提言    1 提言の内容  (1) 調布市にとって基本条例の制定は有意義である。  (2) 調布市住民自治基本条例ではなく調布市自治基本条例とする。  (3) 調布市自治基本条例には前文を設ける。   (4) 調布市自治基本条例は高次の条例であると位置づける。  (5) 調布市自治基本条例の具体的な展開は個別条例の積極的な制定に委ねる。 (6) 調布市自治基本条例においては、一方で地方自治法等の法令で明らかな事項は、確認することがきわめて重要な場合を除き、規 定しないこととし、他方で新しい価値または制度の創出は積極的に規定することとする。  (7) 調布市自治基本条例の全体の条文数は20条程度をめどにする。  (8) 調布市自治基本条例の文体は、    1) 分かりやすい文章で、読んで美しい日本語にする。    2) いたずらに定型的な法的表現に流れることのないようにする。    3) 簡潔な文章にする。  2 提言についてのいくつかの説明  (1) 基本条例制定の意義 1) 調布市はこのほど市制50周年を迎えた。いま自治体が抱える問題と課題は多様で深刻である。調布市も例外ではない。しか し、基礎的自治体である市が前例踏襲的に市政を展開する段階はとうに過ぎ去った。確かに地方財政制度や法制度は一自治体がすべてを自 立的に処理できる仕組みにはなっていない。そうではあっても、他方で、住民は調布市政が自主的で自立的な特徴あるものであってほしい と願っているし、住民が安全にそして安心して暮らせる生活が少しでも実現されるよう、市議会が活性化し、行政組織が力強いものとなる ことを願っている。住民の自治意識は高まっている。 2) 調布市は、他の自治体の動向にとらわれることなく、自らの課題として、まちづくりを中心とする市政に関する基本的な考え 方と方向を示す基本条例を制定するにふさわしい段階にある。それを支える施策の実績も少なくないし、基本条例制定を求める住民の持続 的な運動もある。調布市にとって、市制50周年を機に、市民の合意にもとづき、過去をみつめ、現在をまとめ、将来を展望する、基本条 例を制定することは有意義である。なお、ここでは地方分権の進展という角度からの基本条例制定論も主張された。  (2) 基本条例の名称 1) この懇談会の名称は、「調布市住民自治基本条例に関する市民懇談会」である。この名称には2つの特徴がある。1つは、 「住民自治」をいう点である。もう1つは、「住民」と「市民」とが同時に使われている点である。懇談会は次のように考える。 2) 基本条例の名称は、「調布市自治基本条例」が妥当である。住民自治そのものは、団体自治とともに、憲法が保障する地方自 治の根幹である。ただ、「住民自治基本条例」とすると、条例の内容が住民参加制度に傾くことになるだろう。住民参加制度の積極的な展 開を構想するばあい、住民の範囲をより広く設定することも課題となるが、となると地方自治法が「市町村の区域内に住所を有する者」が 住民であるとする定義規定(10条1項)、それを踏まえた住民自治の具体的制度である直接請求権、住民監査請求権・住民訴訟提起権等と の関係で、基本条例内での住民概念の使い分けが難しくなる。ここでは、団体自治と住民自治を要素とする地方自治制度をふまえた「調布 市自治基本条例」として、調布市政のありかたについて、より包括的に規定することが無難だろう。住民参加制度については、基本条例で その原理を明確にし、その具体的展開は「調布市住民参加条例」とでもいうべき個別条例に委ねるのが妥当だろう。 3) 関連して、市民という呼びかたにも捨てがたいものがある。人々にもっともなじみがある呼称または概念である。調布市広報 等でも「市民」が多用されているが、その場合、「調布市民イコール調布市に住所を持つ者」と定義づけられているのだろう。その「市民」 には、選挙権を持つ市民と選挙権を持たない市民がおり、法人もふくまれることになる。これは、「住民」という用語にあっても同様であ る。大事なことは、「住民以外の調布市に関係する人」にもまちづくりへの参画を呼びかける、調布市の住民はこれを歓迎するという発想 である。これらの人びとをまちづくりから形式的に排除することは妥当ではない。懇談会委員の一部からは、「調布市に居住しないが調布 市に関係ある人、調布市民となんらかの活動をしている人」も「調布市民」とし、それらの人びともふくめた調布市政への市民参加の方向 についても基本条例にもりこむべきであるとする意見も有力に主張されたが、合意に至らなかった。 4) 以上については、基本条例制定に際して、十分に留意することが望ましい。また、既存の条例、広報文書等における「住民」 と「市民」の使用についても、一定程度の整理が必要になる場合もあるだろう。法令上「住民」の使用が要求される場合をのぞけば、「市 民」を積極的に使用することもありうるだろう。あるいは、とくに定義づけにしばられることなく、多様な使い分けが個別条例等で行われ るのに任せるのも一つのいきかたである、とする意見もあった。    5) この報告書ではひとまずの表現として「住民」で統一した。  (3) 条文数と文体      基本条例は、なによりも調布市の住民が読みたくなるものでなければならない。条文数は少ないことが妥当であるし、文体も十 分な工夫がこらされなければならない。もちろん、簡潔さや短さは、メッセージの乏しさに通じる場合もあるが、条文数の多さは読んでみ たい基本条例とはならないだろう。 Ⅳ 懇談に際して用いた調布市自治基本条例の全体的構成案  前 文  第1章 総則   第1条(目的)  第2条(この条例の位置づけ) 第3条(定義)    1 住民    2 執行機関  第2章 原理・原則   第4条(情報公開の原理)   第5条(住民参加の原理)   第6条(公正と透明性の原則)  第7条(条例による市政の原則)  第3章 責務  第8条(住民の責務)  第9条(市議会の責務) 第10条(執行機関の責務)  第4章 市政運営を担う組織   第11条(議会と執行機関との関係)  第12条(組織編成のありかた)   第13条(審議会等のありかた)   第14条(行政の民間化)   第15条(地域ネットワークの構築とその活用)   第16条(国・都・他の地方公共団体との関係) 第5章 財政・財務 第17条(健全な財政)  第6章 点検と評価 第18条(基本条例点検・評価機関)  第7章 補則   第19条(改正手続き) 附則  (報告対象としない。) Ⅴ 全体的構成案に即した懇談内容 前文について 1 前文は絶対に必要であるわけではないが、調布市を愛する住民が、必ずしも条文表現になじまないその想いを前文として表現するこ とは望ましいことである。調布市の住民の想いをのびやかに宣言する場として、前文を設けるのが妥当である。 2 ここでは、調布の自然、風物、人の生活ぶりなどをふくむ「調布らしさ」を表現したい、他の地域との違いを意識した表現がほしい、 とする意見が強かった。そして、それが以下の本文に結びつくようにしたいとする意見が強かった。 3 その文章は、住民にやさしくアピールするようなものでありたい。簡潔さと読みやすさが要求されるのであり、500字程度が妥当 だろう。 第1章 総則  ◎要点 1 ここでは、まず基本条例の目的と位置づけを明らかにし、次いで重要用語の定義を規定し、さらに調布市の自治をだれがどう支え るかについての基本的考え方をおくことが望ましい。 2 基本条例の機能として、あまたある調布市の条例の数々をまとめあげること、新しい価値を先導的に創出することを意識するよう にしたい。   《第1条》(目的)   (1) 各委員からの目的規定の条文案については、資料集を参照。  (2) 「みんながつくる・笑顔輝くまち調布」をここで、または前文で、導入することもありうる。 《第2条》(この条例の位置づけ) (1) 基本条例といえども法形式としては他の条例と同列であるものの、その内容において他の条例を導く条例として、最高の位置 づけを与える趣旨を表現することが必要である。 (2) これから制定される条例はもとより、現在すでにある条例も基本条例の内容に合致するようにすることを表現する。 (3) 基本条例の具体化は個別的条例によって図られる必要があることを表現する。懇談会では、新しい個別条例の例として、食の 安全に関する条例、住民参加条例、住民投票に関する一般条例などが話題になった。  《第3条》(定義)    とくに注意を要する用語については、定義づけをすることが必要である。たとえば、   (1) 住民 1) 基本条例は、調布のまちづくりについて新しい息吹を示すものでなければならない。その意味でも、調布のまちづくりを担 う住民の定義は欠かせない。住民の定義については、懇談会でもっとも長い議論が交わされたテーマのひとつである。     2) 前記Ⅲ2(2)における「住民」と「市民」 を参照。   (2) 執行機関 1) 「市役所、行政、市長、市の職員、調布市、市」などの多くの言葉が使われているが、それらの多くは市政のありかたに注 文をつける対象としての市長をはじめとする行政担当者らを指しているようである。 2) 用語としては、地方自治法が規定する「議会」に対する「執行機関」を採用することが妥当である。 3) ただし、条項によっては、必要に応じて、「市長」、「市長をはじめとする市職員」などと明示することが必要になる。 第2章 原理・原則  ◎要点   1 基本条例を支える原理・原則を明確にしようとするものである。 2 ただし、平和、基本的人権の尊重、住民の安全な生活、障がい者らハンディキャップを持つ住民との共生、食生活の安全、水と緑 の保全などを調布市が大事にしなければならない価値・理念として掲げ、それを実現する基本思想としての原理・原則を示し、ついで制度 を構想するという段階的な規定のありかたを主張する意見もあったが、十分な時間を割いた議論には至らなかった。そのような価値はもり こむとすれば前文で表現するのが有効だろう、となった。  《第4条》(情報公開の原理)    情報の公開(適正な収集、管理に基づく行政情報の開示と提供)は開かれた市政にとって必要不可欠であり、市政の基本原理として 明記する。 《第5条》(住民参加の原理)  (1) 市政においては、基本構想、基本計画等の策定からさまざまな施策の実施まで、住民を中心とする参加制度がさまざまに工夫 され、実践されなければならないことを基本原理として明記する。住民参加制度は情報公開制度があって初めて意味があることをあわせて 表現する。   (2) 住民参加は、懇談会における議論がもっとも活発なテーマであった。個別テーマでもあったし、全17回の懇談すべてに通じ るテーマでもあった。その場合、「住民参加は住民の権利であることを基本条例の中核として明記すべきである。」とする強い意見が複数 の委員からくり返し主張された。「そのことによって、住民は行政に対して参加を明確に主張し、要求できる。」とするものであった。こ の点については、住民参加の権利に対応する諸制度の構築の見通しがつけば、基本条例が住民参加の権利を明記することはあってもいい、 とする意見も強く主張された。 (3) 住民参加は住民の権利であると明記することもありうる。上記(2)における議論は、住民の範囲をめぐる意見の食い違いに よるものでもあったから、住民の範囲を地方自治法上の定義に合わせるのであれば、整合性も生まれる。 (4) 住民参加については、基本条例ではその原理性・権利性を記す方向をとりながらも、住民参加の具体的な対象事項、態様、程 度等を行政領域に応じた個別の条例で展開することが重要である。 (5) 参加と並んで協働を原理として掲げることについては、社会の変化により参加と協働の両輪的重要性が増しているとする強い 主張もあり、相当な意見交換があったが、一致した意見には至らなかった。しかし、「参加と協働のまちづくり」はすでに市政のスローガ ンとして定着しつつある。その意味で、基本条例が、協働を原理として規定することはありうる。基本条例案策定作業では、協働をどう位 置づけるかは大きな課題となるだろう。  《第6条》(公正と透明性の原則)   市政の運営は、公正で透明であることが大事であることを表現する。透明性とは、行政上の意思決定について、その内容及び過程が 住民にとって明らかであることである。  《第7条》(条例による市政の原則)  (1) 市政の運営は条例に基づくのが原則であることを明記する。これは、住民が期待している市議会の活性化にもつながる。  (2) 執行機関による規則の制定、要綱の策定については、意見公募手続(パブリックコメント)の採用が大事であることを表現す る。これも住民参加の重要な一形態である。 第3章 責 務  ◎要点   懇談会では、市長をはじめとする市職員、市議会議員さらに住民の義務明記論もあったが、基本条例に個別的義務論がなじむかどうか、 義務違反に法的にどう対応するかなどが明確でないため、一致に至らなかった。ここでは、義務ではなく、責務としている。  《第8条》(住民の責務)   (1) 住民には、この基本条例をよく理解し、市政への積極的参加を心がけるとともに市政のありかたを注意深く監視し意見を言う ように努めること、さらに、互いに尊重し合い助け合って地域ネットワーク(コミュニティ)の充実に努め、安全で安心できる調布のまち をつくりあげていく責務があることを、なんらかの表現で、基本条例にもりこむことがあっていい。ただし、義務とは違い責務であること から、その表現は穏やかであって共感を呼ぶものであることが要求されるだろう。   (2) この住民には、法人・企業もふくまれるから、法人・企業の責務についてふれることも重要であるが、懇談会では意見をまと めるには至らなかった。  《第9条》(市議会の責務) (1) 市議会には、この基本条例をよく理解し、とくに条例に基づく市政を推進する責務があることを確認的に表現したい。 (2) 市議会及びそれを構成する市議会議員のありかたについてはさまざまな意見があった。市議会が持つもっとも大きな権限とし ては、条例制定権限と予算承認権限を挙げることができる。住民は、市議会が自らも市政の方向を定める条例案の策定に向けた議論を積極 的に展開することを期待している。 (3) そのためには、議会・議員の活動を支える事務局を強化することなども必要になるだろう。 (4) 市議会議員個々人の責務については、基本条例にもりこむことの是非をふくめ、十分な議論には至らなかった。  《第10条》(執行機関の責務) (1) 執行機関、とくに市長には、この基本条例をよく理解し、住民の安全を第一とする予防的行政を心がけるとともに、ときに応 じた果断な対応をする責務があることを確認的に表現したい。 (2) その前提として、とくに市長には、計画的な行政および行政評価に基づく体系的、総合的な行政を推進する責務があることを、 一定の表現でもりこむことも必要になる。 (3) 執行機関、とくに市長には、この基本条例をよく理解し、住民参加の領域、段階、方法、程度等について、失敗をおそれるこ となく、柔軟で効果的なさまざまな工夫をし実践する責務があることを、なんらかの表現で、基本条例にもりこむことが必要である。 第4章 市政運営を担う組織   ◎要点   ここでは、調布の市政運営を担う組織について考える。条例に基づく行政を念頭に、議会および執行機関(とくに市長)は政策を法的 に工夫するなど自治体政策法務(自治体の政策を法律との関係をにらみながら法的に自主的に展開していくこと)に強い職員の育成に努め る方向を検討する必要があることもいう。また、さまざまな住民のネットワークの持つ意義と可能性にふれることも課題である。  《第11条》(議会と執行機関との関係)    住民の期待を担う議会と執行機関は、開かれた場で相互に必要な議論をつくすとともに、それを住民に積極的に説明することを確認 的に表現する。  《第12条》(組織編成のありかた)   (1) 市長はいわゆる縦割り行政による弊害の排除に強い方針で臨むべきであることを表現する。   (2) 市長は、組織編成と職員配置において適正さと柔軟さを基本方針とするべきであることを確認的に表現する。   (3) 市長は、新しい課題に対処するための担当部署を意欲的に組織するとともに、そのための人材登用の必要性を表現する。   (4) 市長は民間経験者の登用、市の政策を法的に工夫するなど自治体政策法務に強い職員の育成を積極的に視野に入れる必要があ ることを表現する。  《第13条》(審議会等のありかた) (1) 執行機関は、審議会等の諮問機関を設置するに際しては、場合によって公募委員を半数以上とするなど、その人選方法におい て格別の工夫をしなければならない。   (2) 審議会の整理統合の必要性も視野に入れる必要があるだろう。   (3) 審議会間における行政情報等は効率的に共有されなければならない。  《第14条》(行政の民間化)   (1) 住民は、一方で行政民間化の必要性を認めるものの、他方で断片的な行政活動は望んではいないなどの意見もあった。ただし、 この点については、十分な議論をするには至らなかった。 (2) 公の施設の指定管理者制度のありかたもふくめ、出資団体等に対する指導監督については、いずれも重要な課題ではあるが、 十分な議論をするには至らなかった。  《第15条》(地域ネットワークの構築とその活用) (1) 執行機関および議会が、地域ネットワーク(地域的な人的ネットワーク)の構築とその活用を政策として採用する必要性を表 現する。自治会、消防団その他のさまざまな既存の組織及び柔軟な組織的展開を見せるボランティア団体等の多様な活動実態にも注目する ことが大切である。調布市の文化創造、安全で安心できるまちづくりにとって有効な地域ネットワークの育成、支援、活用がなされなけれ ばならない。 (2) この地域ネットワークづくりは、コミュニティづくりとして構想することもできるだろう。懇談会でもコミュニティの構築の 重要性と必要性を基本条例にもりこむべきであるとするきわめて積極的な意見があったが、地区協議会の設置とその運用等との関係などを めぐる論点整理が不十分なままに終わった。基本条例制定に際しては、論点等の整理が必要になるだろう。これは、住民・市民論に関わる 論点でもあった。また、コミュニティ概念の不明確さを指摘する根強い意見もあった。 (3) ただ、いまの状況からすると、個人情報保護に関する過剰ともいえる対応に示されるような、地域ネットワーク・コミュニ ティづくりに対する住民のばらばらな意識が壁になるかもしれない。しかし、それだからこそ、基本条例には、この点に関する理念と具体 的施策を明確に表現することが重要になるだろう。調布市の議会、執行機関とりわけ市長をはじめとする市職員そして最終的には住民自身 がこの問題にどう立ち向かうかがまさに問われているだろう。とはいえ、堅い表現になることは避けたい。 (4) ただし、地域ネットワーク等に安易に行政代替的機能を持たせてはいけないことは記す。  《第16条》(国・都・他の地方公共団体との関係)    議会及び市長等が、国等との関係で、以下のことがらに留意することを表現する。   (1) 国・東京都・他の地方公共団体との相互関係は、法的には相互に対等であるととともに、協調関係が保たれるものであること。   (2) 住民の福祉向上のために、防災対策をはじめ、必要に応じて、隣接自治体等の他の地方公共団体と連携した行政活動が追究さ れなければならないこと。   (3) 国及び都に対しては、必要に応じて、政策的提言を積極的に行うことが重要であること。   第5章 財政・財務  ◎要点  市の財政状況に関する徹底した情報公開の必要性を確認するとともに、予算配分に関する施策の形成のありかたをいう。ただし、懇談 会では予算編成における一般財源枠分配方式をはじめ予算編成、契約、決算、監査等の財政・財務に関する全面的な意見交換は積み残しと なった。  《第17条》(健全な財政)  市の財政状況は常に情報公開され、市長は予算案編成作業を中・長期的展望のもとに適正に行うものとすることを表現する。予算決 定に際しては、市長による予算案策定権限と市議会による審議との調和が課題である。市議会における予算委員会の活用も望まれるところ である。予算決定は、最終的には市議会の議決権限に委ねるところであるが、予算案策定の段階で住民参加を模索することも重要になるだ ろう。 第6章 点検と評価  《第18条》(基本条例点検・評価機関)    市長の付属機関として、基本条例の実施状況を点検し評価することを目的とする、点検評価機関の設置を基本条例に規定することを 主張する意見があった。付随して、その設置に際してはその構成員はすべて住民とすることを望む意見があった。ただし、その設置の制度 化については慎重な検討を要するとの意見もあった。 第7章 補則  《第19条》(改正手続き)     改正手続きについて特別多数決等の規定を設けることによって、基本条例の最高の位置づけを示そうとする意見もあったが、法的に 問題があるとの意見もあり、合意に至らなかった。 附則(非報告対象事項)  実施時期など。 Ⅵ この報告書の扱いについての要望  1 この報告書が住民に対してできるだけ速やかに公表されることを要望する。 2 この報告書が基本条例案策定作業に際して基礎資料として用いられることを要望する。 3 基本条例案策定作業に懇談会委員若干名が参加することになることを要望する。 おわりに  以上、懇談会での意見交換に基づき報告書を作成いたしました。全17回とはいえ、夕刻から2時間に限定した懇談会開催は検討課題と の関係でいささか困難な運営となりました。それでも、ある種のすがすがしさがあります。多くの論点を残していますし、意をつくしてい ないところも多いのですが、多岐にわたった議論のようすは会議録をお読みいただければ幸いです。各委員による前文案、条文案などの積 極的な提案についても巻末資料に詳しいところです。  私たちは、ほどなくして、この報告書をめぐる議論が住民の間で活発に交わされ、調布市自治基本条例制定へいたる大きな流れが生まれ ることを期待しています。  私たちは、毎回の多くの熱心な傍聴者の姿に励まされ、毎回の懇談会の準備にあたった事務局(政策室政策調整担当)のみなさんに支え られてきました。また、高校生の意見聴取にあたっては各高校の先生方と生徒のみなさんに多くの協力をいただきました。この報告書はみ なさんのおかげで、できあがりました。このことを最後に特記いたします。