5-3 学齢期の福祉教育を考えるワーキング 報告書 1 目的   教育機関と協働して『障害の社会モデル』をふまえた障害理解教育(人権教育)の授業パッケージを作成し,そのパッケージの普及啓発・活用を進めるための方法について検討し,調布市における障害理解のさらなる促進に繋げる。   2 ワーキングにおいて取り組む主な内容について ・『障害の社会モデル』をふまえた障害理解教育(人権教育)を実施する目的や意義,教育内容,教育方法について検討する。 ・教育関係者の意見を取り入れながら,授業パッケージ(指導案,動画教材,ワークシート等)を作成する。 ・作成した授業パッケージの普及啓発の方法について検討する。 3 ワーキンググループメンバー(敬称略) 座長 谷内  孝行 氏(桜美林大学 健康福祉学群 准教授)    髙江洲 幸男 氏(当事者)    佐々木 翼  氏(当事者)    樋川 宣登志 氏(調布市立第一小学校 校長)    原田  勝  氏(調布市教育委員会指導室 副主幹)    毛利  勝  氏(特定非営利活動法人調布心身障害児・者親の会)    木内  洋  氏(社会福祉法人調布市社会福祉協議会 こころの健康支援課長)    田村  敦史 氏(社会福祉法人調布市社会福祉協議会 地域生活支援課長)    野原  健吾 氏(社会福祉法人調布市社会福祉事業団                      国領地域児童館・学童・あそビバ 施設長)                          4 今年度の検討経過  第1回ワーキング (開 催 日)令和7年6月23日(月) 18時から20時 (開催場所)空と大地と (出 席 者)委員9名 事務局7名 (内  容) ① 今年度の目的・方針・成果目標・年間スケジュールの確認 ② 人権教育(福祉教育)の授業展開について意見交換 ③ 人権教育(福祉教育)の授業で使用するイラストについて意見交換 (主な意見) ① 人権教育(福祉教育)の授業展開について意見交換 (1)指導案について ・90分の授業構成で検討していたが,児童が集中力を維持できないおそれがあるため,A(車いす編)とB(視覚障害編)のそれぞれを作成し、どちらを使用するかは先生に選択してもらうとよいと思う。 ・授業で目指したいのは「考えるきっかけを作る」ことである。きっかけ作りの教材として今回の指導案を活用してもらいたい。先生にはそういう視点を持って福祉や障害理解教育の導入として使ってもらいたい。 ・保護者も「障害の社会モデル」を理解できるよう,保護者にも伝えられる機会があるとよい。 ・東京都教育委員会で作成している人権教育プログラムの内容に障害者の項目があるので,それをより具体的に地域の実態に即した内容に落とし込み調布市版として作れるとよい。 (2)動画教材について ・先生方に見てもらう授業の事前解説動画について,多忙な業務の合間で見ることを考慮すると10~15分程度が妥当である。人権教育プログラムの教材ができることで先生方の意識も変わるかもしれない。先生自身が授業前に解説動画を見ることで「障害の社会モデル」について考えるきっかけになるとよい。先生の視点を変えることがまず一歩に繋がる。 ・障害当事者からのお話については,障害当事者講師養成研修を修了した方に協力してもらうとよい。 (3)イラストの内容について ・車いすを使用する方や肢体不自由の方にとって固定のソファー席や配膳ロボットは不便なことがある。タッチパネルやドリンクバーも使いづらいと感じることもある。 ・ドリンクバーは身長の小さな子どもにとっては,ボタン等の使いづらさがあるのではないか。 ・一人の児童がイラスト内の不便なこと全てに気づかなくても良い。皆で意見を出し合えることが大切である。 ・視覚障害者や高齢者等タッチパネルを使いづらいと感じる人も多いと思うが,障害によってはタッチパネル式の注文が便利な方もいる。誰かにとって不便なものが誰かにとって便利ということもある。そのような要素も盛り込んでもよいと思う。 ・たくさん盛り込みたい要素はあるが,1科目だけの授業なので削ぎ落すことも必要。ハード面はたくさんあるが,ソフト面は体験や対話を通して自ら気づくことも必要と思う。 (まとめ)  今回ワーキングでは,授業教材の内容について協議を行った。今後ワーキング内で継続的に協議し,授業教材の作成を進める。当事者の動画については,障害当事者講師養成研修修了者に出演を依頼し,「障害の社会モデル」や「障害理解」等の視点を取り入れた内容で作成している。今回授業を受けるのは,小学校4年生が対象ではあるが,この授業に携わる先生の視点の変化にも期待したい。  第2回ワーキング (開 催 日)令和7年9月4日(木) 18時から20時 (開催場所)空と大地と (出 席 者)委員9名 事務局6名 (内  容) ①人権教育(福祉教育)の教材について意見交換 ②紹介PR文について意見交換 ③今後の教育機関との協働について意見交換 (主な意見) 人権教育(福祉教育)の教材の作成について ・「不便という事実」と「困るという実感」は分けて考えた方がよい。子どもたちの「困ってそうだから助けたい」という優しさは大事にしたい。 ・障害があるからできないのではなく,環境側に原因があることに気づけるような教材にしたい。障害当事者の動画を見ることで,児童が自分には何ができるのか発見できる機会に繋げたい。 ・「福祉教育」は若い先生には馴染みが薄いと思う。東京都の分類では「人権教育」の中に「障害者」があるので,「障害者理解」の方が分かりやすいと思う。 紹介PR文について意見交換 ・調布市内の小学校校長が集まる自主校長会の場で,この教材をPRすることで,教材について周知することができる。自主校長会は情報共有や意見交換の場になっている。 ・子どもの発見や気づき,率直な感想を入れることで,子どもたちの反応が分かるため,先生たちも教材を使用するきっかけになると思う。 今後の教育機関との協働について意見交換 ・教材データの保管場所・アクセス方法については,教育委員会での保管等は難しい。 ・QRコードで読み取って,教材にアクセスしてもらう形を作るのはどうか。すぐアクセスが可能で,利便性が高いと思う。 ・市のホームページの障害福祉課のページに掲載し,そこからダウンロードをしてもらうことは可能か。YouTubeの限定公開(URL指定・アカウント登録)も可能だが,アカウントの作成や管理が必要となる。 ・教材がどれくらい使用されたか,効果測定も必要である。その為にもアクセス管理ができる場所で教材の保管や管理が必要である。 ・5年後には社会の状況が変わり,教材内容が社会状況に合わなくなる可能性がある。その場合,教材の更新を検討する必要がある。(例:ロボット配膳が使われなくなる)。 ・教材を作成するだけではなく,障害福祉課が積極的に自主校長会等でPRする必要がある。継続的に普及啓発をしていかないと,この教材は継続的に使用されなくなってしまう心配がある。 (まとめ) 今回のワーキングでは,人権教育(福祉教育)として作成中の教材の方向性,普及方法,教育機関との協働体制について意見交換を行った。教材作成に関しては,できない理由が個人ではなく環境側にあることに焦点をあてる必要がある。また,今後教材の一つになる障害当事者の動画の中でも「障害の社会モデル」の考え方を伝えられるとよい。 教育機関との協働では,教材データの保管方法が課題となった。教育委員会での保管,管理は難しい点から,QRコードでアクセスできる仕組みを検討した。動画の限定公開等ではアカウント管理についての課題が残っている。授業教材を作成した後の普及啓発や内容の更新等は今後検討していく必要がある  第3回ワーキング (開 催 日)令和7年12月2日(火) 18時から20時 (開催場所)空と大地と (出 席 者)委員8名 事務局7名 (内  容) ①第一小学校での人権教育(障害者理解)授業ふりかえり ②教材の保管について意見交換 ③今後の普及啓発について意見交換 (主な意見) 第一小学校で11月6日に実施した人権教育授業のふりかえり ・授業前にクラス担任と直接打ち合わせをする時間が取れなかったが,事前に詳細な説明 がなくても,配布資料と動画教材のみで授業の進行はできていた。クラス担任が授業を したことで,児童が積極的に意見だしをする等,授業全体の雰囲気がとても良かった。 ・授業中の児童の発言や授業後の感想から,「できないことを本人のせいにしない」等,児童自身の言葉で深めていくことができていた。「障害の社会モデル」の理解に繋がったと思う。 ・この授業を受けた子どもが,将来どの職業に就いても今回の授業を思い出してくれるとよい。 ・今回の教材作りを通じて,教育・福祉ともに新たな気づきを得ることができた。 教材の保管について ・LoGoフォーム申請時に,クラスや学年等を複数選択できるとよい。また,入力が必須な項目や内容については検討したい。 ・教員向けの実施後アンケートも実施し,効果測定を行いたい。 ・フォームに「任意の質問」や「その他ご意見」欄を追加してもよい。 今後の普及啓発について ・校長会で年1回程度,障害福祉課から周知していく方法がある。しかし,実際に授業教材を使用するまでにはハードルが高い。小学校に出向いて教材の活用について相談したり,先生方の研修会等でも紹介する等の検討が必要である。 ・今回この授業教材には「障害当事者講師養成研修」を修了者に協力してもらっていることは調布市の取り組みが繋がっていてよい。今後授業教材を使用することで,障害当事者講師の活躍が広がるきっかけにしたい。 ・この授業教材は車いすや視覚障害等「目に見える障害」を中心にした授業教材となっている。そのため,今後は精神障害や発達障害等の「目には見えない障害」に焦点をあて,学校の現状把握をし,授業教材等の作成も検討していきたい。 (まとめ) 今回,ワーキング内で検討してきた教材を実際に先生が使用し,授業を実施することができた。授業中の児童の様子や感想からは,「私たちが暮らす地域には多様な人たちがいることを知る」,「誰もが暮らしやすい地域づくりについて考える」という教材のねらいについて,おおむね伝わった印象を受けた。 また,これまで課題となっていた教材の保管方法について、今後は障害福祉課が窓口となり,教材の利用を希望する小学校が申請フォームに入力することで教材をダウンロードできる仕組みで運用していく。教材完成後の普及啓発については,小学校への訪問など方法も含めて検討していく必要がある。 今回の授業は,身体障害などの「見える障害」を題材に「障害の社会モデル」を考える内容となっている。そのため,精神障害や発達障害など外見からは分かりにくい「見えない障害」についても今後検討したい。    第4回ワーキング (開 催 日)令和8年2月6日(金) 18時から20時 (開催場所)空と大地と (出 席 者)委員8名 事務局7名 (内  容) ①人権教育(障害者理解)教材と今後の保管や周知方法について ②3年間のワーキングの振り返り (主な意見) (1)人権教育(障害者理解)教材と今後の周知方法について ① 教材の内容 ・担当する先生に向けた解説動画は事前に動画の長さを明記しておくことで、視聴するきっかけになると思う。また最後に「障害当事者講師派遣」の案内を入れることで障害当事者講師の存在を知ってもらう機会になると思う。この作成した教材の次の段階として,講師を招いて生の声を聞いていただく機会に繋がると良い。 ・教材は「1単位時間(45分)」で完結する構成になっているため,説明文に所要時間を明記することで,授業計画に組み込みやすい教材であることが認識しやすくなる。 ・「障害当事者のお話」の動画は,障害当事者の話している内容とイラストの内容が一致しているため,シーンに合わせてイラストを大きくする編集をすることで児童が理解しやすくなると思う。 教材の周知方法 ・障害福祉課が年2回の校長会で周知する方向で検討している。障害福祉課が年間スケジュールに継続的な周知を行うことで,障害福祉課の担当者の異動があっても取り組みが途切れないようなる。 ・まずは教材を知ってもらうことから始めなくてはいけない。実際に小学校に出向くなどのPR方法についても引き続き検討して行って欲しい。 ・令和8年2月に文科省は教職課程において「障害の社会モデル」を必修とする案を示している,今後この教材が生かされると良いと思う。 (2)3年間のワーキングの振り返り ・この教材を児童が「障害の社会モデル」の考え方に触れる最初の一歩として使用できると思う。この授業を受けた子どもたちが大人になった時に「あの授業で聞いた」と思い出すことが,長期的な成果に繋がると良い。授業参観で保護者が授業を見ることで,家庭にも社会モデルによる障害理解が広がって欲しい。 ・先生自身も障害理解として障害の社会モデルを考える機会になると良い。 ・教育と福祉の連携が継続することで,地域全体の障害理解が深まり,共生社会の実現に近づくと思う。 ・今回の教材は視覚障害・車いす利用者の身体障害の内容で作成してきたが,ゆくゆくは精神障害・発達障害などの外見から分かりにくい障害についても,障害当事者の声を取り入れながら取り組めるとよい。 ・教育プランや福祉計画等に「障害の社会モデル」等の言葉が今後明記されることを期待したい。 ・1年目は各小・中学校に福祉教育に関するアンケートを実施して現状を把握した。そこから,ヒアリングを繰り返し,ワーキング内で授業の内容を試行錯誤しながら第一小学校で実践させてもらったことで,今回の教材ができあがった。様々な専門分野の協力があったからこそ,出来上がったのだと思う。 ・3年間の取り組みを通じて,教育と福祉の関係者が意見交換をしながら,作り上げてきたこと自体が有意義な時間だった。このワーキングに参加したことが私たちの大きな学びに繋がった。 ■これまでの到達点 調布市における人権教育(障害理解教育)の取り組みは、まず教育現場の実態把握から始まった。市内の小中学校を対象にアンケートを実施し、全校から協力を得て、人権教育(障害理解教育)の現状や課題を整理した。その後、アンケート結果をもとに3校へヒアリングを行い、アンケート結果だけでは見えなかった具体的な状況を把握することができた。 また、年に1度、第一小学校の協力を得て人権教育(障害理解教育)の授業を実施してきた。授業を通して教材の改善点や伝えるべきポイントを整理し、教育・障害当事者・福祉で協議を重ねながら、小学4年生向けの教材づくりを進めてきた。ワーキング以外の時間にも調布市教育委員会の先生方から意見をいただき、指導案(車いす使用者編・視覚障害編)、イラスト教材、障害当事者のお話動画、先生向けの解説動画、ワークシートなどを整備した。障害当事者のお話動画は、市が実施している障害当事者講師養成研修を修了した方の協力を得て業者撮影を行った。動画の内容は駅のホームやファミリーレストランのイラストを使用し、困りごとや工夫、社会的な課題を示し、「障害の社会モデル」を考えるきっかけとなる教材に仕上がった。 これらの教材を用いて実際に第一小学校で授業を行った際には、「できないのは本人ではなく環境の問題だ」という児童の感想も聞かれ、教材が目指した視点に近づくことができた。一方で、教材の保管やアクセス方法には課題が残っていたが、最終的に障害福祉課がQRコードとLoGoフォームを組み合わせた運用方法を整え、申請からダウンロード、保管までを一元化できる仕組みを構築した。 今後は、校長会などでの継続的な周知を通じて教材の普及を図るとともに、使用状況等の効果測定を進めていく必要がある。また、社会の変化に合わせて教材を更新していく体制づくりも課題である。さらに、今回の教材は身体障害など周囲から「見える障害」が中心であるため、今後は精神障害や発達障害など「見えない障害」についても教育と福祉の立場から再度検討し、より幅広い障害理解につなげていくことが求められる。 今回の取り組みを通じて、教育と福祉は近いようでいて、専門性や使用する用語の使い方など多くの違いがあることを実感した。しかし、話し合いを重ねる中で、教育関係者・障害当事者・福祉関係者が協働し、両者をつなぐ新たな取り組みを形にすることができたと感じている。授業を受けた児童たちが、地域には多様な人が暮らしていることを知り、自分たちにとって当たり前の環境が誰かにとっては不便であることに気づく、誰もが暮らしやすい地域づくりについて考えるきっかけとなることを期待している。そして、この学びが調布市の未来を担う子どもたちの成長につながることを願っている。