(令和6年度答申第4号)                             答 申 1 審査会の結論  処分庁が,令和4年2月2日付け3調都外発第3080001号で「ご意見・お問合せ(令和3年9月24日収受)」(以下「一部公開文書」という。)を一部公開決定とした処分は,非公開とした部分及びその理由が妥当ではないことから,取り消すべきである。 2 本件の経緯 年月日 経緯   令和4年1月19日  審査請求人は,調布市情報公開条例(平成11年調布市条例第19号。以下「本条例」という。)第6条第1項の規定により,市政情報公開請求書を処分庁に提出し,「大学教授の方から調布市長宛に送られてきた2021年9月21日付の文書「東京外環道・調布市トンネル陥没事故について」(付属文書等を含む)および,それについての内部検討文書や回答,並びに市議会や外部(事業者,他自治体等)との情報提供・交換等のやりとり情報(Eメール等を含む)一式」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。  処分庁は,同日付けで本件市政情報公開請求書(以下「本件請求書」という。)を受理した。   令和4年2月2日  処分庁は,本件請求について,本条例第11条第1項の規定により市政情報一部公開決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。   令和4年5月2日  審査請求人は,本件処分を不服とし,審査請求書(以下「本件審査請求書」という。)を審査庁に送付し,行政不服審査法(平成26年法律第68号。以下「法」という。)第2条の規定により,審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。 審査庁は,同日付けで本件審査請求書を受理した。   令和4年6月2日  処分庁は,法第29条の規定により,弁明書(以下「本件弁明書」という。)及び証拠資料を審査庁に提出した。  審査庁は,同日付けで本件弁明書及び証拠資料を受理した。   令和4年7月1日  審査請求人は,法第30条の規定により,反論書(以下「本件反論書」という。)を審査庁に2回に分けて提出した。  審査庁は,同日付けで本件反論書を受理した。   令和4年7月4日      令和4年10月7日  審査請求人からの申出により口頭意見陳述を実施した。 令和4年10月21日  審査請求人から補充的書面の提出期限延長を求める申出があった。 令和4年10月24日  審査請求人から「不服審査請求令和4年度第7号事件についての意見書」と題する書面が提出された。 令和4年11月14日  審査庁は,期限内に処分庁から補充的書面の提出がなかったことから審理を終結し,本条例第19条の2第1項の規定により,調布市情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に諮問(以下「本件諮問」という。)を行い,諮問書とともに本件審査請求書,本件弁明書及び本件反論書の写し(以下「本件諮問書等」という。)を当審査会に提出した。 3 本件審査請求の内容 (1) 本件審査請求の趣旨  調布市長が審査請求人に対し行った本件処分の取消しを求める。 (2) 本件審査請求の理由    審査請求人の本件審査請求書,本件反論書,本件口頭意見陳述,補充的書面及び本条例第24条に基づく口頭での意見陳述における主張はおおむね以下のとおりである。 ア 2021年9月21日付の文書「東京外環道・調布市トンネル陥没事故について」は,一人の専門家の提言や参考情報のはずであり,条例第7条第6号の「市の機関又は国,独立行政法人等若しくは他の地方公共団体が行う試験問題」,「職員の身分取扱い」,「争訟の処理方針」,「監査及び検査の計画その他の事務事業に関する情報」のいずれにも該当しないし,「公にすることにより,当該事務事業の性質上,当該事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」でもない。 イ 条例第7条第6号に該当する理由とした「公にすることにより市民からの率直な相談,問合せを妨げるおそれがあるため」は,最も許容できない詭弁であり,世間の一般常識に照らして理解不能である。「公にすることにより…」という理由は,条例第7条のいずれの号にも該当しない。また,条例の趣旨からは,個人情報を非公開にすることによって,そのような理由から解放される。   ウ 調布市議会議長宛にも同様の情報公開請求を行った。請求件名は「大学教授の方から市議会議長等宛に送られてきた2021年10月18日付の文書『東京外環道トンネル協議会結成の必要性』および付属文書等,並びにそれについての回答や議員,市長部局,その他への情報提供等のやりとり情報(Eメール等を含む)一式」である。一部公開決定通知書における,「市政情報の件名」は,「令和3年10月18日付調布市議会議長宛て「東京外環道トンネル協議会結成の必要性」及びその添付文書並びに議員への情報提供文書」である。一部非公開理由は,氏名等に関する情報は個人情報に該当するため,及び印影に関する部分は財産情報に該当するためだけで,個人情報及び印影以外は公開であった。同じ文書を対象として情報公開請求を実施した際に,本件処分よりも広い公開範囲で決定がなされていることからも,本件処分が違法・不当であるのは明らかであると考える。   エ 処分庁は,調布市情報公開条例第8条により容易に区分して公開できる部分までをも,個人からの意見であるなどとして区分せずに全て非公開としており,都合の悪い情報を恣意的に非公開とする不適切な運用をしていると考える。「提案者連絡先:」「TEL」「E-mail:」「投稿者:」「連絡先:」「電話:」「e-mail:」以外は全黒という,99.9%非公開というありえないほどの一部公開であることから,明らかに条例第8条違反が疑われる。   オ 処分庁は,文書の提出者に第三者照会を行わず,度を越したマスキングを行うことは違法不当である。同一文書が提出されている他の自治体では,条例に従って第三者照会を行っている。またその照会内容は,個人情報以外のところは公開するというものである。 4 処分庁による本件弁明書等の趣旨   本件弁明書等による処分庁の主張を要約すると,おおむね以下のとおりである。 (1) 弁明の趣旨  「本件審査請求を棄却する。」との裁決を求める。 (2) 本件審査請求に対する弁明  本件処分における非公開理由の一つとして挙げている条例第7条第6号の規定については,「公にすることにより,市が行う事務事業の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報が記録された市政情報は非公開とすること」を定めたものである。  処分庁に寄せられる個人からの意見や相談については,その内容を公開することで,市に対する率直な意見や相談を萎縮させるおそれがある。地域の安全・安心の確保と市民の抱く不安の払しょくに向けた取組を最優先に行う中で,市に対する率直な意見や相談が妨げられることは,市民が感じる課題や不安の声等,市が事業者へ的確な要請や指摘を行ううえでの判断材料が得られないことにつながり,事務事業の適切な遂行に支障を及ぼすものである。  本件処分の対象文書についても,個人の知識や経験をもとに市に対して寄せられた意見であり,上記の理由から条例第7条第6号に該当すると判断したものである。 5 審査会の判断  本件請求の範囲について当審査会は,審査請求人の本件審査請求書,本件反論書,本件口頭意見陳述,補充的書面及び本条例第24条に基づく口頭での意見陳述における主張並びに処分庁の本件弁明書及び理由説明における主張を具体的に検討した結果,以下のように判断する。 (1) 本件請求の経緯  ア 令和2年10月に調布市内で発生した東京外かく環状道路工事を起因とする地表面陥没事故に関連して,大学教授の方が個人として,自身の専門分野の研究等に基づく分析や意見・提言をまとめた文書を市に宛てて送付し,市はこれを収受した。審査請求人は,この文書について市政情報公開請求を行った。 イ 令和4年1月の本件請求時における外環事業に関する所管部署は,都市整備部付外環担当であったが,その後,令和6年4月から都市整備部まちづくり推進課となった。そのため,本件答申時における処分庁は都市整備部まちづくり推進課である。 (2) 一部公開の範囲   ア 処分庁は,本件処分において「氏名等」を条例第7条第2号,「印影」を同条第4号,それ以外の部分を同条第6号に該当することを理由に市政情報の一部を非公開としている。審査請求人は,処分庁が条例第7条第6号に該当することを理由として非公開とした情報は同条同号に該当しないと主張していることから,条例第7条第6号の該当性について検討する。  条例第7条第6号では「市の機関又は国,独立行政法人等若しくは他の地方公共団体が行う試験問題,職員の身分取扱い,争訟の処理方針,監査及び検査の計画その他の事務事業に関する情報であって,公にすることにより,当該事務事業の性質上,当該事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を非公開情報として定めており,「情報公開事務の手引(令和2年度版)」には,同条同号の趣旨・解釈について,次のように記述されている。「事務事業」とは,本号本文に列記した項目に限定されるものではない。また,同種の事務事業が反復される場合の将来の事務事業も含まれる。「事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは,事務事業に関する情報を公にすることによる利益と支障とを比較衡量した結果,公にすることの公益性を考慮してもなお,当該事務事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過しえない程度のものをいう。この場合,「支障を及ぼすおそれ」は,単なる抽象的な可能性では足りず,当該事務事業の適正な遂行に支障を生じることについて,法的保護に値する蓋然性が認められなければならない。  一部公開文書は,市内で発生した地表面陥没事故に関連して送付された文書であり,条例第7条第6号に基づき非公開とされた部分には地表面陥没事故の起因となった東京外かく環状道路工事についての分析や意見等が記述されている。条例第7条第6号に定める「事務事業」が同条同号本文に列記した項目に限定されるものではないとしても,条例第7条第6号に基づき非公開とされた部分が同条同号に定める「事務事業に関する情報」に該当するかについては疑義があり,仮に「事務事業に関する情報」に該当すると解したとしても,処分庁が主張するような「処分庁に寄せられる個人からの意見や相談については,その内容を公開することで,市に対する率直な意見や相談を萎縮させるおそれ」という「事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は,抽象的な可能性に過ぎず法的保護に値する蓋然性を認めることはできない。  専門的な内容を含んだ個人からの意見は,意見者の知識や経験を反映したものであり,その内容から特定の個人を識別しうる可能性もあることから,条例第7条第2号に該当するか否かの判断は慎重になされるべきであるが,処分庁が条例第7条第6号を理由に非公開とした情報は同条同号に該当するものではない。 イ また,条例第8条では,「実施機関は,公開請求に係る市政情報の一部に,非公開情報が記録されている場合において,非公開情報に係る部分を容易に区分して除くことができ,かつ,区分して除くことにより当該公開請求の趣旨が損なわれることがないと認められるときは,当該非公開情報に係る部分以外の部分を公開しなければならない。」と規定している。  本件処分において条例第7条第2号に基づき非公開としている「氏名等」や同条第4号に基づき非公開としている「印影」は,その他の情報と容易に区分して除くことが可能である。条例第7条第2号及び同条第4号に該当しない情報については条例第8条に基づき部分公開すべきものである。 (3) その他    その他,審査請求人は縷々主張しているが,当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。 (4) 結論    よって,原処分は取り消すべきである。 6 当審査会の処理経過   当審査会は,本件諮問について以下のように審査を行った。 年月日 処理経過 令和4年11月14日 審査庁から提出された本件諮問書等を受理  令和6年 1月29日 情報公開審査会(令和5年度第5回) 本条例第24条の規定による審査請求人の口頭での意見陳述    同年 3月28日 情報公開審査会(令和5年度第6回) 審査    同年 5月15日 情報公開審査会(令和6年度第1回) 審査    同年 6月27日 情報公開審査会(令和6年度第2回) 審査 7 調布市情報公開審査会委員 職名 氏名 備考 会長 草川 健 弁護士 副会長 井上 寛 弁護士 委員 稲益 和子 弁護士 委員 佐藤 惠子 市民 5